モノクローナルBリンパ球増加症

血液は通常、からだで必要な分だけを作り、やがて寿命を迎えて壊されます。この仕組みは厳密に制御されていますが、「がん」になると制御が効かない異常血球が増加し、正常血球が減少したり、異常血球が正常組織に入り込んだり(浸潤)、発熱や体重減少などの全身症状をもたらします。

しかし、異常血球はあるけれど何の症状も起こしていない、いずれ治療が必要な「がん」に進行する可能性がある病気が存在します。その代表が異常な形質細胞が見られるMGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)で、1年間に約100人が多発性骨髄腫に進展します。同じように慢性リンパ性白血病に進展する可能性がある異常なBリンパ球が見られる病態をモノクローナルBリンパ球増加症と言います。

【定義】
●モノクローナル(同じ性質を持って増加した)なBリンパ球が5000/μl未満で、その状態が3ヶ月以上続く。
●リンパ球が増えることによる所見(リンパ節の腫れ、肝臓や脾臓の腫れ、正常な血球の減少、リンパ節以外への浸潤)がない。

【頻度】
男:女=1.5:1

欧米では
40歳未満 0.2~0.3%
40歳~60歳 3.5~6.7%
60歳~ 5~9%

とされています。しかし慢性リンパ性白血病は欧米では白血病の30%なのに対して日本では3%程度、年間10万人に0.3人とまれです。ここから推測すると、日本人の場合の頻度はそれぞれ10分の1程度と考えられます。

【どういう人で疑うか?】
健康診断などの採血で白血球、特にリンパ球が増加(だいたいは4000/μl以上)している場合。(数年間続いている場合はさらに怪しい。)
家族に慢性リンパ性白血病やリンパ球の腫瘍の人がいるとき。

【原因は?】
不明です。
遺伝のほかC型肝炎、肺炎との関連性が指摘されています。

【診断】
採血した血液でフローサイトメトリーという検査を行います。これは血液細胞ひとつひとつに抗体をつけてレーザー光を当てて性質を調べる検査です。通常、Tリンパ球ならCD2,CD3,CD5,CD7とCD4あるいはCD8が陽性、Bリンパ球ならCD10,CD19,CD20が陽性でκ:λが0.5~3倍程度の比率で見られます。もし、この原則に合わない細胞集団がいた場合は腫瘍と考えます。

モノクローナルBリンパ球増加症では以下の3つのタイプに分類されます。

①慢性リンパ性白血病タイプ
CD5,CD19,CD23陽性、CD20,表面免疫グロブリン陰性~弱陽性、κかλに偏りあり。
Tリンパ球で見られるCD5とBリンパ球で見られるCD19が同時に存在し、Bリンパ球に特徴的に見られるCD20が抜けていることが異常です。

②非典型的な慢性リンパ性白血病タイプ
CD5,CD19,CD20陽性、表面免疫グロブリン陽性、CD23±。
慢性リンパ性白血病の典型例で見られるCD23が陰性でも良いこと、CD20が落ちていないことが①と違います。

③慢性リンパ性白血病と異なるモノクローナルBリンパ球増加症
CD5は陰性~弱陽性、CD20陽性、表面免疫グロブリン陽性。
こうなると慢性リンパ性白血病に連なる病態と言うより低悪性度B細胞腫瘍と言っても良いかも知れません。

【異常血球量による分類】
●多い>2000/μl
●少ない<50μl
と分類します。中間はほとんどいません。

数が多い場合の方が少ない場合より感染症を起こす可能性と慢性リンパ性白血病に進展する可能性が高い、と報告されています。数が少ない場合には慢性リンパ性白血病への進展はほとんどありません。

【鑑別診断(どういう病気と区別するか?)】
●慢性リンパ性白血病
異常血球が5000/μl以上、リンパ節の腫れ、肝臓や脾臓の腫れがある、正常な血球が減少しているときは慢性リンパ性白血病と診断されます。

●低悪性度B細胞リンパ腫
マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、原発性マクログロブリン血症は似た性質を示す場合があります。それぞれ、特徴的な性質があるため注意深く鑑別していきます。

【診断されたらどうすれば良いの?】
基本的には特に何かをする必要はありません。普通の生活を送ってください。異常血球数が多い人でも同じ年齢、性別の方と生存期間は変わりません。
残念ながら現時点で病気を根治する、あるいは進行を遅らせる方法はありません。仮に慢性リンパ性白血病と同じ治療を行えば異常血球を減らせるかも知れませんが、得られるメリットよりも副作用や合併症によるデメリットが圧倒的に多くなります。

ただし、以下の3点だけは気をつけましょう。

●感染症
健康な人と比べて入院するような感染症になる可能性が3倍になるため感染予防をしっかり行ってください。発熱などの際には早めに受診しましょう。

●進展
治療が必要な慢性リンパ性白血病に進展する可能性は年に1~2%あります。何も症状が無くても半年~1年に1回は定期的に受診してください。フローサイトメトリーやCT検査を定期的に行う必要はありません。

●がん
血球のがん、血液以外のがんに普通の方の2倍程度かかりやすい、と言われています。健康診断を積極的に受けて早期発見に努めましょう。

【まとめ】
モノクローナルBリンパ球増加症は日本人には稀な慢性リンパ性白血病の前段階と言える状態です。リンパ球が数年間多いときに疑い経過を見る必要があります。病気が進展することはまれですが、感染症やがんには注意が必要です。

参考
Blood.2015;126(4):454-462.Paolo Strati and Tait D.Shanafelt. Monoclonal B-cell lymphocytosis and early stage chronic lymphocytic leukemia:diagnosis, natural history, and risk stratification.

Up to date. Topic 118011 Version 6.0  Monoclonal B cell lymphocytosis.

青あざが出来やすい

ぶつけた覚えがないところに青あざを見つけること、ありますよね?そんなときの考え方について解説したいと思います。

【どのくらいいるの?】
健康な人の12~18%は青あざが出来やすい、と報告されています。この中で本当の病気はわずかです。

【青あざが出来る過程】
青あざは皮膚の下に血液がたまることで出来ます。ケガなどで血管が破綻して出血すると、血小板が働き血液を応急的に止めます。その次に凝固因子が働きしっかりと止血します。この過程のどこかがおかしいと青あざが出来やすくなります。

簡単な理解として
コンクリートが剥がれ水があふれだしている=出血
穴を土で塞ぐ=血小板
土を踏み固めて平らにする=凝固因子
頑丈にコンクリートで舗装する=凝固第XⅢ因子

という役割分担です。

【どういうときに病気を疑うの?】
●原因
強い外傷がないのに青あざが出来たとき。(皮膚が薄い人、肥満の人、女性では思い出せないくらいのわずかなケガで青あざが出来ることがあります)

●場所
肘より先・膝より下以外に出来た青あざや、5箇所以上に青あざが出来たときには異常を考えます。関節内の出血も異常です。

●あざの種類
点状出血や紫斑は普通の青あざより病気を考えます。

●経過
手術・歯科治療・出産のときに血が止まりにくかった、経血が3日以上減らない、ヒゲそりなどの傷で血が止まりにくい、鼻血や歯肉出血を繰り返す、家族に血が止まりにくい人がいるときには異常を疑います。

【原因別に考える】

  1. 血管や周辺の結合組織の異常:たんぱく質やビタミンCの摂取不足、アルコールの飲みすぎ。加齢。ステロイド薬の長期使用。生まれつき皮膚が伸びやすい病気(Ehlers-Danlos症候群、Marfan症候群など)など。
  2. 血小板の異常:血小板が減る病気、血小板の機能を落とす薬(アスピリンやクロピドグレルなど)を飲んでいるとき、生まれつき血小板機能が落ちる病気(May-Hegglin異常、Bernard-Soulier症候群など)など。
  3. 凝固因子の異常:ビタミンKの欠乏、肝障害、血友病、抗凝固薬(ワーファリン、リクシアナなど)を飲んでいるとき、など。

【検査】
血算(血液の数を調べる)、凝固検査(PT,aPTT)を調べます。必要に応じて血小板機能を調べます。以前行われていた出血時間については不確定要素が多く推奨されません。

【まとめ】
青あざは皮下に出血したときにできるもので悩んでいる方は12~18%と、意外にいます。女性は皮膚が弱く、手足が見える服装も多いことから青あざに気づいて受診される方も多い印象です。

一般的に気づかずにぶつけることが多い肘より先、膝より下の青あざはあまり心配はいりません。繰り返す出血、家族に出血しやすい病気の人がいる、もともとの病気がある(内服薬がある)人、検査に異常がある人は原因を調べることが必要です。

判断がつかない場合、不安が強い場合は血液内科にご相談ください。

壊死性リンパ節炎について

コロナウイルス感染症が流行していた2020年5月には発熱、リンパ節の腫れで来院された患者さんが数名いらっしゃいました。
生検をしていないので診断は確定できませんが、菊池病と考えられ、どなたも自然に改善しています。
「コロナウイルスが流行していても普通の病気がお休みしているわけではない」という良い教訓でした。
今回、大学病院勤務時代にカンファレンス用に作った資料を公開いたします。参考になさってください。

菊池病

別名 菊池-藤本病、組織球性壊死性リンパ節炎、亜急性壊死性リンパ節炎
概要 1972年に初めて報告され、これまで733例の報告がある原因不明の良性リンパ節炎。
好発年齢 20歳~35歳 (実際には広い年代に見られる)
性別 男:女=1:2 (12歳以下では男児に多い)

原因
不明だが以下が考えられる
・感染?(EBV、HHV6、HHV7、HHV8、HSV、HIV、HTLV-1、Parvovirus B19、Yersinia enterocolitica、toxoplasma)
・アジアからの報告が多く、ヨーロッパからはまれ。⇒HLAハプロタイプとの関連(DPA1*01、DPB1*0202?)
・自己免疫機序 全身性エリテマトーデスとの関連(アジア28%、ヨーロッパ9%)

症状
・急性~亜急性に出現する局所特に頚部リンパ節腫大、発熱、上気道症状、嚥下痛など。
・非典型的な症状として悪寒、盗汗、関節痛、体重減少。ときに肝脾腫。
・腫大リンパ節は後頚部が多く(90%)、痛みを伴う。中間サイズ(0.5-4.0㎝)が多い。
・全身リンパ節腫大に至る症例は1~22%。
・リンパ節外病変は皮膚が最多(30-40%)

(菊池病 69 例の臨床的検討 都立駒込病院感染症科:感染症学雑誌 第83巻 第 4 号)

検査データ
・(ときに血球貪食が関連する)軽度の血球減少(白血球19~43%、貧血23%)。
・赤沈亢進(40-79%)、LDH上昇(53%)、ALT上昇(23%)。末梢血異型リンパ球(25%)

診断 
リンパ節生検。
針生検では偽陽性37.5%、偽陰性50%を認め正診率56%。

鑑別
感染性リンパ節炎(結核、トキソプラズマ、Bartonella henselae、HIV、EBV)、結合織異常(SLEなど)、リンパ増殖性疾患など。

鑑別診断(臨床所見および画像所見)

治療 自然軽快(64%)、ステロイド使用(10‐40%程度)、クロロキン

予後
おおむね良好だが0.5~2.1%で死亡 (心筋浸潤、脳出血、全身性エリテマトーデス、血球貪食症候群)。再発4~15%。全身性エリテマトーデス、混合性結合性組織病、シェーグレン症候群などとの合併あり。

まとめ
壊死性リンパ節炎は原因不明の良性リンパ節炎です。
アジア人に多く膠原病との関連が言われていることが特徴的です。
治療なしでも自然に良くなるケースが多いものの、一部重症化し、再発も比較的多いので注意が必要な病気です。
若い女性で熱、リンパ節の腫れ、血球減少などをみたら疑うべき病気です。

白血球数の異常について

健康診断などで「白血球が増えている」 あるいは「白血球が減っている」ことを指摘されご心配されている方が多いことと思います。
ここでは白血球数異常について解説したいと思います。

《そもそも白血球とは?》
白血球とは血液の工場である骨髄(こつずい)中で作られる血液細胞です。
ばい菌、ウイルス、カビなどから身を守るためにはたらきます。

《白血球数の正常値は?》
人間ドック学会による基準では正常値 3100~8400/μL、軽度異常 8500~9000/μL、要経過観察 9000~9900/μL、要医療 3000/μL以下あるいは10000/μL以上とされています。数と原因、重症度は必ずしも一致しません
参考;人間ドック学会基準値

《白血球の種類と役割は?》
ひとくちに白血球と言っても白血球の中にはいろいろな種類があり、それぞれ役割が異なります。

【顆粒球(かりゅうきゅう)】
細胞の中に殺菌成分のある粒々が入っている白血球です。以下の種類があります。

好中球(桿状球、分葉核球):細菌などの異物を食べて除去する。桿状球は若い好中球で分葉核球は成熟した好中球です。

好酸球:寄生虫と戦う。アレルギーにも関係する。

好塩基球:アレルギーに関与する。

【単球・マクロファージ】
殺菌
リンパ球に敵や腫瘍(がん)の存在を知らせてリンパ球の活動を助ける

【リンパ球】

B細胞:
ばい菌やウイルスをやっつける抗体をつくる。
T細胞:
ウイルスに感染した細胞や腫瘍(がん)細胞をやっつける
ほかのリンパ球の働きを調整する。
NK細胞:
腫瘍(がん)やウイルス感染細胞を排除する。

《白血球数異常の際にはここを見ましょう》
➀ほかの血球(赤血球、血小板)はどうなっている?

●白血球数のみの異常
健診で見つかる白血球増加では、多くは肥満、喫煙が原因です。
感染症では白血球の増加、減少ともに起こす場合があります。
まれな原因としてホルモン異常、薬剤、膠原病、アレルギー、がん などでも起こることがあります。
➁のように増減している白血球が何か、を調べていきます。

●白血球、赤血球、血小板ともに増えている
すべての血液のもとになる幹細胞での異常を考えます。
具体的には骨髄増殖性腫瘍(慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、骨髄線維症)が疑われます。

●白血球は増え、赤血球は減少している。血小板は変わらないか多い。
慢性の炎症、あるいは腫瘍を考えます。
炎症が続くと鉄がうまく使えなくなり貧血になります。

●白血球、赤血球、血小板ともに減少している。
すべての血液のもとになる幹細胞の異常(骨髄不全症:再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、発作性夜間血色素尿症)
すべての血液を作るのに共通する栄養素の不足(ビタミンB12欠乏性貧血、葉酸欠乏性貧血)
脾臓が腫れて血液の寿命が短くなる肝硬変
などを考えます。

●白血球は増えているが赤血球、血小板は減っている
急性白血病、がんの骨髄転移、重症感染症などを考えます。

白血球 赤血球 血小板 代表的な病気
骨髄増殖性腫瘍
なし
↑ or → 慢性炎症、腫瘍
急性白血病
なし
なし
なし
骨髄不全、肝硬変

白血球が増加し、赤血球と血小板が減少している場合は急性白血病も考えられるため緊急で受診することが必要です。

➁白血球のどの成分が増えている、減っている?
次に白血球を目でみて分類し、どの血球が増えている、あるいは減っているかを検討します。
正常な成分が増えている、あるいは減っている場合にはゆっくり原因を調べていきます。
その場合は原因があるもの、血液の増減自体が病気であるもの、の2通りが考えられます。
一方で異常な血球が出ている場合には白血球数に関わらず緊急な場合もあり血液内科専門医への受診が必要です。
(例:急性前骨髄球性白血病では白血球数は増えないことがありますが、1日の受診の遅れが致命的になることがあります。)

【正常な成分が増えている場合】
好中球:感染症、ケガ、クッシング症候群など

好酸球:アレルギー(気管支喘息、アレルギー性鼻炎など)、寄生虫感染症、血液腫瘍、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症など

 

単球:慢性の炎症、血液腫瘍、がん、抗がん剤治療後など
リンパ球;ウイルス感染症、慢性リンパ性白血病(一見正常に見えます)

【異常な成分が増えている場合】
骨髄芽球:急性骨髄性白血病、進行期の骨髄異形成症候群など
前骨髄球:急性前骨髄球性白血病など
幼若白血球(骨髄芽球~後骨髄球)が全体に増える:慢性骨髄性白血病、がんの骨髄浸潤、重症感染症、抗がん剤治療後、G-CSF使用後など
異型リンパ球:ウイルス感染、悪性リンパ腫、リンパ性白血病など

【正常な成分が減っている場合】
好中球:重症感染、自己免疫疾患、抗がん剤治療後など

リンパ球:ウイルス感染、栄養不良、ステロイド治療、抗がん剤治療後など

以上のように白血球ひとつでもいろいろと病気は考えられますが、ほかの血球との関係性、どの白血球に問題があるのか、を調べていくことで診断していくことが血液内科で行う診療となります。

《まとめ》
白血球の数の異常を指摘された場合はまず他の血球との関係性を確認します。
白血球数だけに異常がある場合と他の血球に増減がある場合に考えられる病気が異なるからです。
そのうえで白血球の中身を確認し、どの血球が増えているあるいは減っているかを調べます。
異常な血液が出ている場合には早急な対応が必要です。
正常な成分の増減については慎重に調べていく必要があります。

《最後に》
近くの先生に相談する際にはぜひ「血液検査で血液像(目視)」をオーダーしてもらうようにしてください。
また、芽球がみられ、出血傾向(鼻血、ぶつけていないところに青あざなど)がある場合は脳卒中や心筋梗塞と同じくらいの緊急事態ですので早めではなくただちに血液内科にお問い合わせください。

血小板が多い

健康診断などで血小板が多いことを指摘されご心配されている方へ、血小板増加についての考え方、診断について解説したいと思います。それぞれの病気の説明、治療方法などについては別の機会に解説します。

《そもそも血小板って?》

血小板は出血したときに血をかためる成分です。血液の工場である骨髄の中には巨核球と呼ばれる細胞があり、この細胞質がちぎれてできたものが血小板です。

血小板が少なすぎると出血しやすくなり、多すぎると血液が固まりやすくなります。脳梗塞や心筋梗塞では血液の塊ができることで血管がふさがり、その先の血流が悪くなり脳細胞や心筋細胞が障害を受けてしまいます。少なすぎても多すぎてもいけないのです。

《血小板数の正常値と血小板増加症について》

血小板数の正常値は15~45万/μLです。

血小板増加症とは血小板数が45万/μL以上のことを指します。

なお、2020年度の人間ドック学会の基準値では14.5~32.9万/μLを正常、40万/μL以上を精密検査の対象としています。(異常のありそうな方を早めに見つける、という目的でこのような数値設定になっているものと思います。)

参考;人間ドック学会の検査基準値

《こんな患者さんは緊急受診しましょう》

〇血小板数が多いときに一番の問題は上記の血栓症を起こすことです。肺や心臓の血管に血栓が詰まると息が苦しくなったり胸が痛くなったりします。血小板が多いと指摘されている方でこのような症状がある方はすぐに受診しましょう。

〇血小板数が多くなりすぎると血小板と血小板をつなげる「のり」となるフォン・ヴィレブランド因子という成分が消費され無くなってしまいます。そうなると血小板数が多すぎることで出血しやすくなります。出血が止まらない、という場合にも緊急受診が必要です。

〇症状がなくても血小板数が100万/μLを超えるときには血栓や出血が起きやすい状態と言えます。早めに受診しましょう。

《血小板が多くなる原因は?》

血小板数が多くなる原因は大きく分けて3つが考えられます。

健診結果で心配で調べている方の中にはすぐに「本態性血小板血症」という血液腫瘍がヒットして不安を募らせている方も多いと思います。しかし本態性血小板血症は10万人あたり0.2~2.3人と非常にまれな病気で、多くの方は➀の鉄欠乏や炎症によるものです。

➀血液以外の原因があり血小板が増えてしまう場合(反応性血小板増加)

〇鉄欠乏、出血などで血液をたくさん作っている場合

血小板と赤血球は共通する前駆細胞から作られます。このため赤血球がたくさん作られるようなときには血小板が増加することがあります。月経のある女性では鉄欠乏により血小板が増加することがよく見られます。

〇炎症がある場合

感染症やリウマチなどの膠原病、外傷、腫瘍などがあるときにはサイトカインという炎症を起こす物質が体中に放出されます。これが巨核球を刺激し、血小板数が増えます。

➁血液が腫瘍になり血小板が増えてしまっている場合

➀とは異なり血液の工場の中で問題が起きている状態です。このため以下の診断をする際には骨髄検査が必要になります。

〇骨髄増殖性腫瘍

造血幹細胞と言われるすべての血液のもとになる細胞に異常が生じて血液全体が増えてしまう病気です。この中には慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症(真性多血症)、骨髄線維症、本態性血小板血症があります。(ほかに非常にまれな病気として慢性好中球性白血病、慢性好酸球性白血病、分類不能型骨髄増殖性腫瘍があります。)

骨髄増殖性腫瘍を疑った場合、まず慢性骨髄性白血病を除外します。この病気はBCR/ABLという特徴的な異常を持ち、チロシンキナーゼ阻害薬(グリベック、タシグナ、スプリセル、ボシュリフ)が非常に良く効くためほかの病気と対応が異なるからです。

参考;国立がん研究センターがん情報サービス

次に真性赤血球増加症の可能性を考えます。この病気はJAK2V617FあるいはJAK2 exon 12と言われる異常により赤血球増加のアクセルが踏みっぱなしになる病気です。病気の名前からは赤血球だけが増えそうな印象ですが、血小板が増えることがあるため、真性赤血球増加症を疑って評価をしていきます。JAK2V617Fについては真性赤血球増加症の95%以上にみられる異常でクリニックで調べることが可能です。

この2つではなかった場合に本態性血小板血症と骨髄線維症を疑います。というのも診断する際にはほかの血液腫瘍ではないことを証明する必要があるからです。

本態性血小板血症、骨髄線維症とも原因は不明ですが、JAK2、CALR、MPLという遺伝子異常を持つことがあります。「遺伝子異常」=「本態性血小板血症」あるいは「骨髄線維症」とは言えませんが、➀の反応性血小板増加症ではないことがわかります。

本態性血小板血症の場合、特徴的な巨核球が骨髄中に増加し、血小板が増加します。病気の性質としてすぐに血栓を起こすわけではないことから個人的には以前の診断基準のとおり血小板数60万/μL以上の場合に疑えばよいのではないか、と考えています。一方で早期の骨髄線維症と区別することは非常に重要です。

骨髄線維症の場合は異常な巨核球や顆粒球が増え、骨髄が線維化(カチカチになる)し血液を骨髄の中で作れなくなってしまいます。血液を作る場が脾臓に移るため脾臓が腫れていきます。この病気は骨髄増殖性腫瘍の中でも重症化しやすい病気のためしっかりと診断し治療を検討することが重要です。

〇骨髄増殖性腫瘍以外の血液腫瘍

5qを欠損した骨髄異形成症候群、骨髄異形成症候群/骨髄増殖性疾患、急性骨髄性白血病の一部でも同様に血小板が多くなることがあります。

 

➂その他

脾臓摘出後:血小板の寿命が長くなるために血小板が増えます。

家族性:TPO、MPLという血小板を作るのに必要な遺伝子が活性化するような家系の方では血小板が増加することが知られています。(見たことはありませんが…。)

《まとめ》

血小板は血を止めるために大切な血液成分です。しかし増えすぎると血栓症の危険が出てきます。多くは反応性の血小板増加ですが、中には血液の病気のこともあります。血栓症や出血の症状がある、血小板100万/μL以上の人はすぐに大きな病院を受診し、そうではない方は(可能ならかかりつけの先生に炎症や鉄欠乏の評価をしてもらい)血液内科を受診するようにしましょう。

参照:up to date Topic 6682 Version 28.0,  WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues ほか

多血症(血色素が多い)

健康診断などで血色素(ヘモグロビン(Hb))、ヘマトクリットが高いことを指摘されご心配されている方が多いことと思います。ここでは多血症についての考え方、診断について解説したいと思います。

《赤血球の検査の見方について》
まず血液検査の中で赤血球の検査についてお示しします。赤血球数、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)は以下の関係になります。

赤血球数:血液1マイクロリットルあたりの赤血球の数。
Hb(血色素):全血液中のHb(赤血球の中にある酸素を運ぶたんぱく質)の量を計ったもの。低くなると貧血。
Ht:全血液中の赤血球の容積率。
血液を遠心分離すると血液は下のように分かれ、重い赤血球は下の方に集まります。Htは図の赤矢印÷黒矢印、つまり全血液中の赤血球の割合ということになります。

《多血症の基準とは?》
多血症の診断基準は以下のようになります。
男性 ヘモグロビン(Hb) > 16.5 g/dl、ヘマトクリット(Ht) > 49 %
女性 ヘモグロビン (Hb)> 16.0 g/dl、ヘマトクリット (Ht)> 48 %

ヘモグロビン、ヘマトクリットのどちらか一方が越えていても多血と診断されます。赤血球数は基準には含まれません。
ちなみに2020年度の人間ドック学会の基準では
男性ヘモグロビン 正常:13.1~16.3 軽度異常:16.4-18.0 要医療:18.1以上
女性ヘモグロビン 正常:12.1~14.5 軽度異常:14.6-16.0 要医療:16.1以上
と男性において軽度異常の中に多血症が含まれてしまう、という矛盾があり注意が必要です。

《まず相対的な多血を除外しましょう》
カルピス🄬をご自宅で作るときに水が少なければ濃い味になります。
これと同じで脱水状態で採血をすると血漿成分が少なくなり血液が濃縮し多血になります。
相対的な多血とはこの状態(図:中)です。
よくあるのは嘔吐や下痢をしたあとの採血ですが、健診のとき前日の夜からまったく水を飲まずに採血すると同様の結果になることがあります。喫煙やいわゆるストレス多血症でも同じことが起こります。

左:正常 中:相対的多血 右:真の多血

来院される方の大多数はこの相対的な多血の状態と考えられます。まず水分補給をしっかりと行い、喫煙はやめるようにして検査してみましょう。

 

《真の多血症は2つにわけて考えます》
真の多血症は図右のように本当にヘマトクリットが増えた状態です。実際に赤血球が増えています。原因を2つにわけて考えます。

1.造血機能以外に原因があって多血になっている場合
➀低酸素が原因になっている場合
スポーツ選手が高地トレーニングをすると、身体は酸素を運ぶヘモグロビンが増えるように順応します。同じように心臓や肺に病気がある場合など身体の中で低酸素の状態がおきるとヘモグロビンが増えてしまいます。
また、タバコを吸う方はタバコの燃焼によって生じた一酸化炭素がヘモグロビンと強固に結合してしまい、実際に働けるヘモグロビンが減少し低酸素を起こす場合があります。

最近よく目にするのは睡眠時無呼吸症候群による多血の患者さんです。夜に呼吸が止まり低酸素の状態となることで多血症になってしまいます。

参考:睡眠時無呼吸症候群(当院Blog)

➁エリスロポエチンを過剰につくってしまう場合
赤血球を作ることを促す物質(サイトカイン)であるエリスロポエチンは腎臓で作られます。
腎臓に行く動脈で動脈硬化が起こることで腎臓が低酸素になるとエリスロポエチンが過剰に作られ多血になることがあります。

また、エリスロポエチンを作る腫瘍がある場合にも多血症になります。肝細胞がん、腎がん、血管芽腫、褐色細胞腫、子宮筋腫などが代表的な腫瘍です。

2.造血機能そのものがおかしくなっている場合(真性赤血球増加症などの骨髄増殖性腫瘍)
赤血球のもとになる造血幹細胞に、主にJAK2V617F(95%以上)という異常が生じることで身体の制御を超えて赤血球が増えてしまう病気です。多血症と調べるとまずこの病気が出てくると思いますが、1年に10万人あたり2人程度と非常にまれな病気です。この病気の場合、ただ赤血球が多いだけでなく、血栓を起こしやすいため抗血小板薬の内服、しゃ血(血を抜く)治療などを行います。
参照:骨髄増殖性腫瘍患者・家族会「真性赤血球増加症Q&A」

《多血症ではなにが問題でしょうか?》
多血症では過剰な赤血球の増加により血液がドロドロになることで脳梗塞、心筋梗塞などの合併症が起こる場合があります。
また、真の多血症を起こす原因の中には心臓や肺の病気、睡眠時無呼吸症候群、がんなどが含まれます。これらは放置することで命に関わる場合もあります。

《まとめ》
多血症はヘモグロビン、ヘマトクリットが増加する状態です。
脱水によって起こる「相対的多血症」と赤血球が本当に増えている「真の多血症」があります。
真の多血症には何らかの原因があり多血となる場合、赤血球自体が腫瘍になる真性多血症があります。
重要な病気が隠れている場合もあり放置せず血液内科に受診することをお勧めします。

参考
up to date :Diagnostic approach to the patient with polycythemia

貧血

《貧血とは》
貧血とは、「赤血球中のヘモグロビン値が低下すること」です。
体のすみずみまで酸素を運ぶトラックのような役割をするヘモグロビンが減少することで疲れやすい、動いた時に息切れがするなどの症状が出ます。
ゆっくりと貧血が進むとからだが貧血状態に慣れてしまい重症でも気づかないことがあります。
しかし、重症になると心臓や腎臓に負担がかかりそれぞれの機能を落とすこともあります。
ヘモグロビン 7 g/dl 未満では心不全になることがあり、輸血を考慮する重症な状態です。

また、お子さんの場合はスポーツや学校の成績の低下、などといった形で症状が出る場合もあります。

よく言う「立ちくらみ」「ふらつき」は貧血の症状ではありません
血管迷走神経反射や起立性調節障害と言われる症状であり貧血とは異なるものです。
参照:当院Blog「起立性調節障害について

《貧血の原因》
大きく分けると4つです。

➀材料不足
、ビタミンB12、葉酸、銅などヘモグロビンを作るのに必要な材料が不足する。
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➁材料をうまく使えない
慢性の炎症や腫瘍(がん)、腎臓が悪い場合など材料があってもうまく利用できなくなります。
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➂工場(骨髄)の問題
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・血液のがん(白血病、多発性骨髄腫など)
・血をうまく作れない病気(骨髄線維症、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血など)
・がんの骨髄への転移
などにより血液がうまく作れなくなる。
これらの病気ではたいてい正常な白血球や血小板も低下します。

④作ったあとに壊されてしまう
肝硬変、溶血性貧血など正常に血液が作られても壊されてしまう。

《診断について》
問診などで貧血が疑われる場合は、採血しヘモグロビンの低下を確認します。
そのうえで、貧血の原因を調べます。

血液の工場(骨髄)に問題がある場合に限り骨髄検査を実施します。
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《治療について》
診断に応じて治療の内容が異なります。
「貧血だから」と鉄剤を内服するだけでは重大な病気を見逃す可能性があり、原因をしっかり調べることが重要です。
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鉄欠乏性貧血

(※このブログは2020年7月12日に更新しました)

鉄欠乏性貧血とは、鉄分の不足によっておこる貧血です。
貧血の中では一番多い病気です。鉄欠乏性貧血の原因と治療について血液内科専門医が解説します。

《鉄欠乏性貧血の症状は?》
息切れ、動悸、疲れやすさなどの症状がおこります。
長い時間かけて進行していると自覚症状は感じにくいことがあります。
これは1つあたりのヘモグロビンが運べる酸素量が増えるためです。
しかし、ヘモグロビンが7 g/dlを切るようになると運搬効率を上げても対応できなくなり安静にしていても心臓に負担がかかってきます。
また、特有の症状としてさじ状爪と言われる爪が反り返るような所見や異食症と言われる氷などを食べたくなるような症状が現れることもあります。

《鉄欠乏性貧血の原因は?》
必要量と失う量のバランスが崩れたときに鉄欠乏性貧血になります。
原因として以下のようなものがあります。
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➀出血
月経:他人と月経の量を比較することは少ないため自覚されていない方が多いです。一般的に下腹部に力を入れると血液の塊が出る夜用ナプキンを昼にも使うような方は月経過多と考えられます。
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婦人科系の病気;子宮筋腫や子宮内膜症などで出血が増加することがあります。絶対に見逃してはいけない疾患として子宮がんがあります。

慢性の消化器疾患:胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍、痔など。胃がん大腸がんは絶対に見逃してはいけません。

鉄欠乏性貧血の際には婦人科での診察、便潜血検査などを実施し、出血の原因となる病気を見逃さないことが重要です。
また、出血を起こしやすい病気があれば評価が必要です。

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➁需要の増大
妊娠・授乳:胎児や乳児のために必要量が高まります。妊娠中期以降は普段の約2.4倍の鉄分の摂取が必要です。不足により容易に貧血になります。

成長期:筋肉の発達に伴い鉄の需要が増します。このため成長期には男女問わず鉄分を多く摂取する必要があります。特に激しい運動をするお子さんでは汗や尿中への鉄の喪失、筋肉トレーニングによる筋肉の著しい発達により普通のお子さんより貧血になりやすい傾向があります。スポーツや学校の成績にも直結します
中学生、高校生は採血する機会があまりないと思いますが、原因不明の成績低下などの際には疑ってみましょう。

(2015年日本人の食事摂取基準より)

➂摂取不足
欧米では多くの国で小麦粉への鉄の添加を行っており鉄欠乏性貧血の割合は激減しています。一方で日本人は2001年以降、平均8㎎以下まで減少し慢性的な鉄不足の状態です。過度なダイエット、インスタント食品の多食、偏食は鉄の摂取不足をさらに悪化させます。

④吸収の低下
胃の手術後や慢性胃炎、強力な胃薬の長期内服により胃酸が出ない状態が続くと鉄の吸収が減少します。

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《治療について》
鉄分の補充と出血源のコントロールが治療の中心となります。
鉄分の補充は貧血が回復後、血清鉄、さらに貯蔵鉄(フェリチン)が回復するまで行います。
鉄欠乏性貧血は鉄の借金をしている状態ですので貧血から回復し、貯金ができるまで治療を続けないと簡単に借金生活に戻ってしまいます。
体調が良くなっても粘り強く治療を続けましょう。

➀鉄剤の内服
フェロミア🄬、フェロ・グラデュメット🄬、フェルム🄬などを内服します。
内服により10~20%くらいの患者さんに吐き気、便秘、腹痛、下痢などの消化器症状が生じます。
内服時間や回数の変更(2日に1回の内服)、内服薬の変更(当院ではインクレミンシロップ🄬を処方することがあります)で対応可能なことがほとんどです。

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➁鉄剤の静脈注射
重症の貧血の場合、副作用が強く鉄剤を飲めない場合、胃などの病気のため吸収が非常に悪いときなどに行います。むやみに静脈注射を続けると鉄過剰症を起こし肝臓、腎臓、心臓、すい臓などの機能が落ちることがあるためです。
ときにサラセミアなど鉄欠乏のない患者さんに静脈注射が行われ、鉄過剰症を起こしているケースも見受けられます。静脈注射を行う際には専門医で行うことをお勧めします。

➂出血のコントロール
出血源の治療、止血剤の投与(トランサミン2000mg/日:欧米では4000mg/日使われますが日本の保険では最大2000mg/日)、女性の過多月経であれば低用量ピルの内服などにより出血量を減らすことも重要です。

《鉄の多い食べものとは》
鉄と言えば「レバー」と思い浮かぶかも知れませんが、毎日食べるのはなかなか難しいように思います。
私のお勧めはあさりです。
日本の土には鉄分が少ないため野菜からの摂取は難しいようです。


(引用:鉄剤の適正使用による貧血治療指針「日本鉄バイオサイエンス学会」)

なお、サプリメントは鉄の補充方法として有効ですが、1日に摂取できる鉄の量は10㎎程度です。

【最後に】鉄欠乏性貧血は国民病と呼べるほど多くの患者さんがいるものの専門的な評価が行われず鉄剤だけ内服し続けている方が多いのが現状です。貧血を起こす原因も含めて治療をしていくことが大切です。