リツキサン皮下注製剤について
リツキサンとは?
CD20に対するモノクローナル抗体製剤でB細胞リンパ腫および白血病の治療薬として1997年に登場しました。(日本では2001年に承認。)
画期的な治療成績とこれまでの抗がん剤と異なり病気の細胞のみを攻撃する性質からこれまでに全世界で400万人以上の患者さんに投与され予後を改善しています。
リツキサンの問題点
リツキサンでは注射後反応と呼ばれるアレルギー反応を起こす患者さんがいます。このため点滴で投与する際には解熱剤、抗アレルギー薬を投与のうえで非常にゆっくり投与し、徐々にスピードを上げていくことが必要です。このため点滴には合計3時間以上の時間がかかり、抗がん剤と併用すると患者さんは1日がかりで治療をする必要が出てきます。最近では外来化学療法室で治療を行うことも多く、治療を受ける患者さん、必要なベッドや看護師さんの確保などが課題となっています。
リツキサン皮下注射製剤とは?
リツキサンの皮下注射製剤は欧米ではすでに一般的に利用できています。
皮下注射製剤では静脈注射の12倍(120㎎/ml)の濃度で遺伝子組み換えヒアルロン酸(rHuPH20)と混合します。ヒアルロン酸との混合により皮下に投与しても拡散、吸収が促進され静脈注射のときと同じ血中濃度が達成されます。(rHuPH20は欧米では緩和医療の領域で広く使われ、リツキサンと混ぜても特に問題にはなりません。)また、この製品の面白い点としては通常の抗がん剤と違い体表面積によらず同じ量を投与する、という点です。これにより調剤の時間や設備なども不要となります。
治療成績
未治療ろ胞性リンパ腫に対するSABRINA試験(第3相試験)、未治療びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するMabEase試験(第3相試験)、未治療慢性リンパ性白血病に対するSAWYER試験(第1b相試験)で治療成績に差がないことが示されています。
副作用
注射部位の腫れなどの副作用は3割くらいの患者さんにみられるものの静脈注射のリツキサンと同じ程度の副作用でした。また、同一用量による影響(体の大きい人は投与量が相対的に少なく、体の小さい人は投与量が相対的に多くなる問題)については特に問題なし、とされました。
患者さんの好み
治療の途中で皮下注射と静脈注射を入れ替え、アンケート調査をするPrefMab Studyでは患者さんの多くは皮下注射を好んでいることがわかりました。病院にいる時間が短くなること、より快適であること、などが主な理由です。
日本での状況
残念ながら開発は行われていないようです。理由は
●すでにジェネリック(バイオシミラー)が出ており、メーカーにメリットが少ないこと
●「ヒアルロン酸を皮下に投与する」ことから承認が必要(膝関節などには打っているのに!)
とのことのようです。
感想
リツキサンは抗体治療を世の中に広めた画期的な製剤です。悪性リンパ腫以外にも多くの疾患に利用されています。効率のよい医療資源の活用、患者さんの利便性の向上、COVID-19が流行している中で病院での滞在時間をできるだけ短くする、クリニックでも治療ができるようになる、など良いことづくめの皮下注製剤について検討いただけるとうれしいです。