令和2年度インフルエンザ予防接種について (10月23日更新 )

令和2年度のインフルエンザ予防接種は本日をもって受付をいったん終了とさせていただきます。

10月28日、11月中旬に追加の納品があれば改めてご予約をお取りさせていただきます。ご了承ください。

なお、費用については65歳以上の定期接種は無料、65歳未満は1回目4000円、2回目3000円とさせていただきます。

モノクローナルBリンパ球増加症

血液は通常、からだで必要な分だけを作り、やがて寿命を迎えて壊されます。この仕組みは厳密に制御されていますが、「がん」になると制御が効かない異常血球が増加し、正常血球が減少したり、異常血球が正常組織に入り込んだり(浸潤)、発熱や体重減少などの全身症状をもたらします。

しかし、異常血球はあるけれど何の症状も起こしていない、いずれ治療が必要な「がん」に進行する可能性がある病気が存在します。その代表が異常な形質細胞が見られるMGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)で、1年間に約100人が多発性骨髄腫に進展します。同じように慢性リンパ性白血病に進展する可能性がある異常なBリンパ球が見られる病態をモノクローナルBリンパ球増加症と言います。

【定義】
●モノクローナル(同じ性質を持って増加した)なBリンパ球が5000/μl未満で、その状態が3ヶ月以上続く。
●リンパ球が増えることによる所見(リンパ節の腫れ、肝臓や脾臓の腫れ、正常な血球の減少、リンパ節以外への浸潤)がない。

【頻度】
男:女=1.5:1

欧米では
40歳未満 0.2~0.3%
40歳~60歳 3.5~6.7%
60歳~ 5~9%

とされています。しかし慢性リンパ性白血病は欧米では白血病の30%なのに対して日本では3%程度、年間10万人に0.3人とまれです。ここから推測すると、日本人の場合の頻度はそれぞれ10分の1程度と考えられます。

【どういう人で疑うか?】
健康診断などの採血で白血球、特にリンパ球が増加(だいたいは4000/μl以上)している場合。(数年間続いている場合はさらに怪しい。)
家族に慢性リンパ性白血病やリンパ球の腫瘍の人がいるとき。

【原因は?】
不明です。
遺伝のほかC型肝炎、肺炎との関連性が指摘されています。

【診断】
採血した血液でフローサイトメトリーという検査を行います。これは血液細胞ひとつひとつに抗体をつけてレーザー光を当てて性質を調べる検査です。通常、Tリンパ球ならCD2,CD3,CD5,CD7とCD4あるいはCD8が陽性、Bリンパ球ならCD10,CD19,CD20が陽性でκ:λが0.5~3倍程度の比率で見られます。もし、この原則に合わない細胞集団がいた場合は腫瘍と考えます。

モノクローナルBリンパ球増加症では以下の3つのタイプに分類されます。

①慢性リンパ性白血病タイプ
CD5,CD19,CD23陽性、CD20,表面免疫グロブリン陰性~弱陽性、κかλに偏りあり。
Tリンパ球で見られるCD5とBリンパ球で見られるCD19が同時に存在し、Bリンパ球に特徴的に見られるCD20が抜けていることが異常です。

②非典型的な慢性リンパ性白血病タイプ
CD5,CD19,CD20陽性、表面免疫グロブリン陽性、CD23±。
慢性リンパ性白血病の典型例で見られるCD23が陰性でも良いこと、CD20が落ちていないことが①と違います。

③慢性リンパ性白血病と異なるモノクローナルBリンパ球増加症
CD5は陰性~弱陽性、CD20陽性、表面免疫グロブリン陽性。
こうなると慢性リンパ性白血病に連なる病態と言うより低悪性度B細胞腫瘍と言っても良いかも知れません。

【異常血球量による分類】
●多い>2000/μl
●少ない<50μl
と分類します。中間はほとんどいません。

数が多い場合の方が少ない場合より感染症を起こす可能性と慢性リンパ性白血病に進展する可能性が高い、と報告されています。数が少ない場合には慢性リンパ性白血病への進展はほとんどありません。

【鑑別診断(どういう病気と区別するか?)】
●慢性リンパ性白血病
異常血球が5000/μl以上、リンパ節の腫れ、肝臓や脾臓の腫れがある、正常な血球が減少しているときは慢性リンパ性白血病と診断されます。

●低悪性度B細胞リンパ腫
マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、原発性マクログロブリン血症は似た性質を示す場合があります。それぞれ、特徴的な性質があるため注意深く鑑別していきます。

【診断されたらどうすれば良いの?】
基本的には特に何かをする必要はありません。普通の生活を送ってください。異常血球数が多い人でも同じ年齢、性別の方と生存期間は変わりません。
残念ながら現時点で病気を根治する、あるいは進行を遅らせる方法はありません。仮に慢性リンパ性白血病と同じ治療を行えば異常血球を減らせるかも知れませんが、得られるメリットよりも副作用や合併症によるデメリットが圧倒的に多くなります。

ただし、以下の3点だけは気をつけましょう。

●感染症
健康な人と比べて入院するような感染症になる可能性が3倍になるため感染予防をしっかり行ってください。発熱などの際には早めに受診しましょう。

●進展
治療が必要な慢性リンパ性白血病に進展する可能性は年に1~2%あります。何も症状が無くても半年~1年に1回は定期的に受診してください。フローサイトメトリーやCT検査を定期的に行う必要はありません。

●がん
血球のがん、血液以外のがんに普通の方の2倍程度かかりやすい、と言われています。健康診断を積極的に受けて早期発見に努めましょう。

【まとめ】
モノクローナルBリンパ球増加症は日本人には稀な慢性リンパ性白血病の前段階と言える状態です。リンパ球が数年間多いときに疑い経過を見る必要があります。病気が進展することはまれですが、感染症やがんには注意が必要です。

参考
Blood.2015;126(4):454-462.Paolo Strati and Tait D.Shanafelt. Monoclonal B-cell lymphocytosis and early stage chronic lymphocytic leukemia:diagnosis, natural history, and risk stratification.

Up to date. Topic 118011 Version 6.0  Monoclonal B cell lymphocytosis.

バリフローを導入しました。

当院の感染対策としてバリフローを購入しました。
この機械により院内に陰圧ブースを作ることが可能です。

昨年までインフルエンザの診断は鼻から検体を採取して抗原検査をしていましたが、コロナウイルスの流行によりこの検査は通常の外来では実施できなくなりました。これにより今年の冬にインフルエンザの流行がやってきた場合、「検査を受けられない」状況が生まれる可能性があります。
診断をしないで抗インフルエンザ薬を投与する方法も考えられますが、インフルエンザは薬を投与しても2日程度発熱が続くため「コロナウイルス感染なのではないか?」と心配しながらその2日間を過ごさなくてはならなくなります。

当院はこの陰圧ブースを利用してインフルエンザの検査を実施する体制を整えていきます。

青あざが出来やすい

ぶつけた覚えがないところに青あざを見つけること、ありますよね?そんなときの考え方について解説したいと思います。

【どのくらいいるの?】
健康な人の12~18%は青あざが出来やすい、と報告されています。この中で本当の病気はわずかです。

【青あざが出来る過程】
青あざは皮膚の下に血液がたまることで出来ます。ケガなどで血管が破綻して出血すると、血小板が働き血液を応急的に止めます。その次に凝固因子が働きしっかりと止血します。この過程のどこかがおかしいと青あざが出来やすくなります。

簡単な理解として
コンクリートが剥がれ水があふれだしている=出血
穴を土で塞ぐ=血小板
土を踏み固めて平らにする=凝固因子
頑丈にコンクリートで舗装する=凝固第XⅢ因子

という役割分担です。

【どういうときに病気を疑うの?】
●原因
強い外傷がないのに青あざが出来たとき。(皮膚が薄い人、肥満の人、女性では思い出せないくらいのわずかなケガで青あざが出来ることがあります)

●場所
肘より先・膝より下以外に出来た青あざや、5箇所以上に青あざが出来たときには異常を考えます。関節内の出血も異常です。

●あざの種類
点状出血や紫斑は普通の青あざより病気を考えます。

●経過
手術・歯科治療・出産のときに血が止まりにくかった、経血が3日以上減らない、ヒゲそりなどの傷で血が止まりにくい、鼻血や歯肉出血を繰り返す、家族に血が止まりにくい人がいるときには異常を疑います。

【原因別に考える】

  1. 血管や周辺の結合組織の異常:たんぱく質やビタミンCの摂取不足、アルコールの飲みすぎ。加齢。ステロイド薬の長期使用。生まれつき皮膚が伸びやすい病気(Ehlers-Danlos症候群、Marfan症候群など)など。
  2. 血小板の異常:血小板が減る病気、血小板の機能を落とす薬(アスピリンやクロピドグレルなど)を飲んでいるとき、生まれつき血小板機能が落ちる病気(May-Hegglin異常、Bernard-Soulier症候群など)など。
  3. 凝固因子の異常:ビタミンKの欠乏、肝障害、血友病、抗凝固薬(ワーファリン、リクシアナなど)を飲んでいるとき、など。

【検査】
血算(血液の数を調べる)、凝固検査(PT,aPTT)を調べます。必要に応じて血小板機能を調べます。以前行われていた出血時間については不確定要素が多く推奨されません。

【まとめ】
青あざは皮下に出血したときにできるもので悩んでいる方は12~18%と、意外にいます。女性は皮膚が弱く、手足が見える服装も多いことから青あざに気づいて受診される方も多い印象です。

一般的に気づかずにぶつけることが多い肘より先、膝より下の青あざはあまり心配はいりません。繰り返す出血、家族に出血しやすい病気の人がいる、もともとの病気がある(内服薬がある)人、検査に異常がある人は原因を調べることが必要です。

判断がつかない場合、不安が強い場合は血液内科にご相談ください。

起立性調節障害について

立ち上がったときのめまい、ふらつき、失神など「貧血」と表現される症状は医学的には起立性調節障害と呼ばれます。今回は起立性調節障害について解説したいと思います。

【症状】
急に姿勢を変えたときなどに起こる、「力が入りにくい、感覚が鈍くなる、めまい、もうろうとする、目の前が暗くなる、首の後ろが痛くなる」などの症状。

【起立性調節障害はどのくらいの患者さんがいるの?】
日本小児心身医学会によると小学生の約5%、中学生の約10%のお子さんが起立性調節障害です。
成人の5~20%で高齢になるほど多くなります。

【どういう病気なの?】
普通の人は立ち上がると
➀交感神経という興奮させる神経が働き
➁副交感神経というからだをリラックスさせる神経が抑えられ
➂足や内臓の血管が細くなり、心臓に戻ってくる血流が増え
血圧が維持できます。
起立性調節障害の患者さんはこの仕組みがおかしくなり「脳貧血」という状態になってしまいます。

【こういう人が危険です】
・仰向けで血圧が高い。
・頸動脈が狭い(50%以上の狭窄)。
・薬を飲んでいる(高血圧、糖尿病、抗うつ薬、向精神薬など)。

・アルコールを飲んでいる。

・貧血や脱水がある。
 

・パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などの変性疾患がある。
・糖尿病、シェーグレン症候群、アミロイドーシスなど末梢神経に障害を起こす病気がある。
・高齢者(血圧の変化を感じにくいため)。

【似た病気】
体位性頻脈症候群(POTS)起立時に血圧は下がらないが、脈が早くなる病気です。若い女性に多く、症状は起立性調節障害と同じで目の前が暗くなったりします。原因不明で血液量の減少、静脈の機能低下、心機能の低下、交感神経の活性化などが推定されます。脱水などを避け、適度な運動をすることが有効です。

食後低血圧食後15分~90分で血圧が下がる病気です。食後に内蔵への血流が増加することが原因と考えられています。

反射性失神:何らかの刺激が原因で血管が拡がり、脈が遅くなることで脳貧血を起こします。刺激としては感情の変化、痛み(注射をしたあとなど)、恐れ、長時間の立位、暑い中にいるなどのほか、排尿、咳、排尿、排便、嚥下などが刺激となります。足をクロスさせるのが有効です。

【診断】
仰向けの状態から立ち上がり(2~5分後に)収縮期血圧20mmHg以上あるいは拡張期血圧10mmHg以上低下する。原因の解明のために診察や採血などを行います。

【治療】
治療の目標は症状を取ることで、血圧を正常にすることではありません。
①原因となる薬の中止
②生活指導 ゆっくり起きる、緊張を避ける、激しい咳をしない、暑い中を歩かない、いきんで排便しない、上体を少し起こして寝る、適度な運動をする、血糖値が上がりやすいものを食べない
③弾性ストッキングや腹帯を使う
④足をクロスして立つ、口をすぼめて息を吸う
⑤飲水(1.5リットル以上)と塩分摂取を増やす。

これらでも改善しなければ薬による治療を行います。交感神経を刺激するミドドリンやドロキシドパを用いますが、副作用の注意が必要で、長期に使った場合の効果などについて十分な報告がありません。

副作用のリスクが少ない漢方薬では苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯なども有効とされています。

【まとめ】
血圧は自律神経という神経が調節してくれています。しかし、病気のある人、薬を飲んでいる人、脱水やアルコールなどの条件によって調節がうまくいかなくなり脳にいく血流が落ちると「貧血」と言われるような症状を起こします。体位性頻脈症候群、食後低血圧、反射性失神なども大きくみると同じで自律神経の調節がうまくいかないために起きる病気です。いずれも原因の回避、身体処置(足をクロスするなど)、飲水が有効で、薬で治すような病気とは言えません。自粛期間開け~夏場にかけて明らかに増えている症状ですので注意して生活してみてください。

参照:
Up to date
Topic 5103 Ver23.0 Mechanisums, causes, and evaluation of orthostatic hypotension.
Topic 5105 Ver18.0 Treatment of orthostatic and postprandial hypotension.
Topic 5100 Ver12.0 Postural tachycardia syndrome
Topic 1050 Ver32.0 Reflex syncope in adults and adolescents : Clinical presentation and diagnostic evaluation.
Topic 111958 Ver11.0 Reflex syncope in adults and adolescents : Treatment
Topic 1032 Ver30.0 Syncope in adults : Managemet
起立性調節障害 日本小児心身医学会HP

新型コロナウイルスPCR検査について

【PCR検査を開始します】
当院でも唾液によるPCR検査を開始いたします。結果が出るまで約2日程度のお時間を頂戴いたします。鼻腔による検査については医療従事者の感染のリスクが高いため行わない方針です。

【保険診療の場合】
当院は保健所と契約を結びPCR検査を実施することにいたしました。通常の診療と同様に、症状の推移や接触歴等の問診で得られた情報や診察所見、検査所見、併存疾患等の臨床的特徴を総合的に判断したうえで、必要と認められた患者さんについて検査を実施いたします。当院は医療従事者の感染を防ぐため唾液による検査のみ実施するため発症後9日以内の方が対象となります。患者さんには滅菌容器に 1-2mL 程度の唾液を自己採取していただき検査に提出します。非常に高額で、保険診療では全て保険と税負担になることから本当に必要な患者さんのみが対象となる点についてご理解ください。

【自費検査の場合】
主に海外渡航や職場への提出などのために必要な方を対象に行います。
海外渡航を目的とされる方については外務省のホームページをよくご確認いただいたうえで当院にご相談ください。
検体採取方法の指定があるか、渡航時期に結果が間に合うか、などをご相談させていただいたうえで実施の判断をさせていただきたいと思います。
費用は保険外診療で33000円(診断書料金込)とさせていただきます。

壊死性リンパ節炎について

コロナウイルス感染症が流行していた2020年5月には発熱、リンパ節の腫れで来院された患者さんが数名いらっしゃいました。
生検をしていないので診断は確定できませんが、菊池病と考えられ、どなたも自然に改善しています。
「コロナウイルスが流行していても普通の病気がお休みしているわけではない」という良い教訓でした。
今回、大学病院勤務時代にカンファレンス用に作った資料を公開いたします。参考になさってください。

菊池病

別名 菊池-藤本病、組織球性壊死性リンパ節炎、亜急性壊死性リンパ節炎
概要 1972年に初めて報告され、これまで733例の報告がある原因不明の良性リンパ節炎。
好発年齢 20歳~35歳 (実際には広い年代に見られる)
性別 男:女=1:2 (12歳以下では男児に多い)

原因
不明だが以下が考えられる
・感染?(EBV、HHV6、HHV7、HHV8、HSV、HIV、HTLV-1、Parvovirus B19、Yersinia enterocolitica、toxoplasma)
・アジアからの報告が多く、ヨーロッパからはまれ。⇒HLAハプロタイプとの関連(DPA1*01、DPB1*0202?)
・自己免疫機序 全身性エリテマトーデスとの関連(アジア28%、ヨーロッパ9%)

症状
・急性~亜急性に出現する局所特に頚部リンパ節腫大、発熱、上気道症状、嚥下痛など。
・非典型的な症状として悪寒、盗汗、関節痛、体重減少。ときに肝脾腫。
・腫大リンパ節は後頚部が多く(90%)、痛みを伴う。中間サイズ(0.5-4.0㎝)が多い。
・全身リンパ節腫大に至る症例は1~22%。
・リンパ節外病変は皮膚が最多(30-40%)

(菊池病 69 例の臨床的検討 都立駒込病院感染症科:感染症学雑誌 第83巻 第 4 号)

検査データ
・(ときに血球貪食が関連する)軽度の血球減少(白血球19~43%、貧血23%)。
・赤沈亢進(40-79%)、LDH上昇(53%)、ALT上昇(23%)。末梢血異型リンパ球(25%)

診断 
リンパ節生検。
針生検では偽陽性37.5%、偽陰性50%を認め正診率56%。

鑑別
感染性リンパ節炎(結核、トキソプラズマ、Bartonella henselae、HIV、EBV)、結合織異常(SLEなど)、リンパ増殖性疾患など。

鑑別診断(臨床所見および画像所見)

治療 自然軽快(64%)、ステロイド使用(10‐40%程度)、クロロキン

予後
おおむね良好だが0.5~2.1%で死亡 (心筋浸潤、脳出血、全身性エリテマトーデス、血球貪食症候群)。再発4~15%。全身性エリテマトーデス、混合性結合性組織病、シェーグレン症候群などとの合併あり。

まとめ
壊死性リンパ節炎は原因不明の良性リンパ節炎です。
アジア人に多く膠原病との関連が言われていることが特徴的です。
治療なしでも自然に良くなるケースが多いものの、一部重症化し、再発も比較的多いので注意が必要な病気です。
若い女性で熱、リンパ節の腫れ、血球減少などをみたら疑うべき病気です。

HPVワクチンについて

(※この記事は2020年6月19日に更新しました)

私たちは新型コロナウイルス感染症を経験しました。これまで公衆衛生に対する関心がこれほどまで高まったことはなかったのではないでしょうか?

ウイルスと人類の共生の歴史の中でワクチンの開発によって多くの命が救われてきました。
しかし、HPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頚がんの原因として知られるもののいまだに克服されていません。
HPV感染により年間1万人が子宮頚がんに罹患し約2800人が死亡しています。
(2020年6月19日現在のコロナウイルス感染による日本人の死亡者数は935人です。)

HPVワクチンは小学6年生~高校1年生相当の女子における定期接種(市区町村が主体となって実施し、費用は無料)ですが、「積極的な接種勧奨の差し控え」が行われており、実際に接種しているのは1%未満となっています。

当院としては積極的にお勧めする、というスタンスではありませんが、この機会にもう一度ご家族で議論を行ってみてはどうかと思います。

【ポイント】

●子宮頸がんのほぼすべてが高リスクHPVの感染で起こる。
●子宮頚がんは年間約1万人が罹患し、約 2,900 人が死亡している。
●20〜40 歳代前半で特に発症率が増え、若い女性が死亡したり出産できなくなっている。
●子宮がん検診だけでは感度が低く(50~70%)見逃される可能性がある。

●HPVは性的接触で感染し、コンドームなどを用いても完全には遮断できない。
●HPVの感染は性交渉のある女性の50~80%で起こる。
●HPV感染は多くは一過性、無症状で治るが、一部(1%以下)で感染が持続し子宮頚がんを発症する。

●HPVワクチンは定期接種(公費負担で無料)だが積極的勧奨(接種時期の案内や個別の推奨)を中止している。
●HPVワクチンは自費の場合15,000~16,000円/回と高額で3回では45,000円以上!!

●HPVワクチンの接種は3回の筋肉注射で行い、少なくとも10年以上の効果が期待できる。
●感染が成立したあとでワクチンを打っても効果はない。
●国内で使えるワクチンは2価、4価で9価ワクチンは使えない。

●ワクチンにより60~70%の子宮頚がんの原因となるHPV16/18をほぼ100%予防できる。
●多くの人がワクチンを受けることで集団免疫効果がある。(ウイルス感染者が減少し、ワクチンを受けていない人も感染する危険が減る。)

●ワクチンの合併症として注射部位の一時的な痛みは 9 割以上、一過性の発赤や腫れなどの局所症状は約 8 割の方にみられる。
●HPV ワクチン接種後に生じた多様な症状と HPV ワクチンとの因果関係を示唆するエビデンスは報告されておらず、機能性身体症状と考えられている。
●HPV ワクチン接種後に多様な症状が現れた人たちへの治療体制が整えられた。

参考

日本産婦人科学会「子宮頸がんと HPV ワクチンに関する最新の知識と正しい理解のために」

厚生労働省ホームページ 「ヒトパピローマウイルス感染症(HPVワクチン)」

糖尿病の検査の限界について

糖尿病の管理ではいくつかの指標を使います。
一般的には血糖値、HbA1cが用いられ、多くの患者さんはこの2つで管理できます。
患者さんがほかの病気を持っている場合や特定の薬を内服している場合にはこれらが役に立たないこともあります。
今回は糖尿病の検査における落とし穴について解説したいと思います。

【そもそもヘモグロビンA1cとは?】

ヘモグロビンは赤血球の中に含まれる酸素と結合するたんぱく質です。
通常は2つのα、2つのβから構成されます。
血糖値が高い状態だとヘモグロビンに糖分がくっつきヘモグロビンA1cが作られます

 ヘモグロビン(Hb)

 ヘモグロビンA1c(HbA1c)

いったんヘモグロビンに糖分が結合してヘモグロビンA1cが作られると赤血球の寿命が尽きるまで壊されません。
このため赤血球の寿命( 120日)の間にどれだけ糖分がくっついてしまったか?=血糖値が高い状態がどのくらいあったのか?をヘモグロビンA1c/全ヘモグロビン(%)で調べることができるのです。
1~2か月前の血糖値の状態を知るのに最適です。

【ヘモグロビンA1cが正確に評価できない場合とは?】

ヘモグロビンA1cは赤血球が120日の寿命であることが大前提です。
このため赤血球の寿命が通常と異なる方では異常値が出る可能性があります。

主な原因を説明します。

➀輸血のあと

いちばん極端な例ですが、たくさんの赤血球輸血をされたあとではもはや誰の血を検査しているのかわかりません。

➁貧血の回復期 → HbA1cは低くなる(下図➁)
・鉄欠乏性貧血に鉄剤を投与した
・ビタミンB12欠乏性貧血にビタミンB12を投与した
・腎性貧血にエリスロポエチンを投与した
など、赤血球の造血がさかんになると若い赤血球(糖分にさらされていないヘモグロビン)が増えるためヘモグロビンA1cは低下します。

➂溶血性貧血、脾機能亢進(ひきのうこうしん)→ HbA1cは低くなる(下図➂)
・赤血球の膜に生まれつきの異常がある
・赤血球を攻撃する抗体をもっている(溶血性貧血)
・赤血球を壊す機関である脾臓が腫れている(肝硬変)
では赤血球の寿命が短くなりヘモグロビンA1cは低下します。

④慢性の鉄欠乏性貧血 → HbA1cは高くなる(下図④)
・赤血球の寿命が延長し、糖分に接する機会も多くなるためヘモグロビンA1cは高めになります。

赤血球の寿命とHbA1c

健康    

➁回復期   若いHbが多い

➂溶血    寿命が短い

④慢性貧血  寿命が長い

【ヘモグロビンA1cが正確に測れないときにはどうするの?】

グリコアルブミン(GA)が適切です。

この検査では体の栄養成分であるアルブミンというたんぱく質に結合した糖分の割合を調べます。
HbA1cと同じく血糖が高い状態が続くとグリコアルブミンは増加します。

アルブミン  

グリコアルブミン 

アルブミンは体の中から15日くらいで半減するため過去1か月、なかでも2週間くらいの血糖の状態をみるのに最適です。
ヘモグロビンA1c × 3 =グリコアルブミン くらいで換算されます。

ただし、ヘモグロビンA1cと同様にアルブミンの代謝が早くなっている場合(バセドウ病、ネフローゼ症候群、ステロイド製剤の使用中)には低下するために注意が必要です。

【血糖値が乱高下しているときにはどうするの?】

ヘモグロビンA1cは1~2か月の血糖値の平均を表します。

たとえば下の図で黒線で示したAさんは血糖が乱高下していますが、平均するとHbA1c 7%(青線)です。緑色のBさんも同じくHbA1cでは7%ですが、血糖値の変動は少なくなっています。

臨床の場面では
Aさんは食後に血糖が高くなったり夜間に低血糖を起こしたりしている人
Bさんは一日の変動も日毎の変動も少ない人
のことを表します。
血糖が乱高下すると自律神経の緊張が高まり脳卒中、心筋梗塞などの危険が高まることが知られています。
Aさんの治療をより適切な方法に導くためにはどうすればよいでしょうか?

こういうときには

1.5アンヒドロ-D-グルシトール(1.5AG)

を測定することが有効です。

1.5AGは血糖に似た物質で、腎臓で「ろ過されたのち99%が再吸収」されます。
しかし、高血糖になると腎臓では尿中に排泄される血糖の再吸収に手いっぱいになるため1.5AGは尿中に出て行ってしまいます。
つまり、血糖が一時的にでも高くなると血液中の1.5AGは低下するのです。
食後血糖が上がっているような患者さんでは1.5AGが下がるため数日間の患者さんの血糖変動を見るのに有効です。

もちろんここでも検査の限界はあります。尿中に糖分を排泄させる薬(SGLT-2阻害薬)を内服中の患者さんでは1.5AGが低下してしまうため検査に適しません。

その場合には自己血糖測定器あるいは「持持続血糖測定器」が有効です。

【まとめ】
多くの方は血糖値とHbA1cで十分な評価ができますが、一部の患者さんでは適切な検査方法を選ぶことで糖尿病をより良いコントロールにすることが可能になります。
また、HbA1cが安定した患者さんでは1.5AGを測定し日内変動も抑え、合併症を減らすことが可能となります。

【最後に】
糖尿病の検査の限界について赤血球寿命が気になる血液内科医が解説しました。
健康診断でHbA1cが低いと言われた方は赤血球寿命に異常のあることが疑われます。
血液内科へご相談ください。

白血球数の異常について

健康診断などで「白血球が増えている」 あるいは「白血球が減っている」ことを指摘されご心配されている方が多いことと思います。
ここでは白血球数異常について解説したいと思います。

《そもそも白血球とは?》
白血球とは血液の工場である骨髄(こつずい)中で作られる血液細胞です。
ばい菌、ウイルス、カビなどから身を守るためにはたらきます。

《白血球数の正常値は?》
人間ドック学会による基準では正常値 3100~8400/μL、軽度異常 8500~9000/μL、要経過観察 9000~9900/μL、要医療 3000/μL以下あるいは10000/μL以上とされています。数と原因、重症度は必ずしも一致しません
参考;人間ドック学会基準値

《白血球の種類と役割は?》
ひとくちに白血球と言っても白血球の中にはいろいろな種類があり、それぞれ役割が異なります。

【顆粒球(かりゅうきゅう)】
細胞の中に殺菌成分のある粒々が入っている白血球です。以下の種類があります。

好中球(桿状球、分葉核球):細菌などの異物を食べて除去する。桿状球は若い好中球で分葉核球は成熟した好中球です。

好酸球:寄生虫と戦う。アレルギーにも関係する。

好塩基球:アレルギーに関与する。

【単球・マクロファージ】
殺菌
リンパ球に敵や腫瘍(がん)の存在を知らせてリンパ球の活動を助ける

【リンパ球】

B細胞:
ばい菌やウイルスをやっつける抗体をつくる。
T細胞:
ウイルスに感染した細胞や腫瘍(がん)細胞をやっつける
ほかのリンパ球の働きを調整する。
NK細胞:
腫瘍(がん)やウイルス感染細胞を排除する。

《白血球数異常の際にはここを見ましょう》
➀ほかの血球(赤血球、血小板)はどうなっている?

●白血球数のみの異常
健診で見つかる白血球増加では、多くは肥満、喫煙が原因です。
感染症では白血球の増加、減少ともに起こす場合があります。
まれな原因としてホルモン異常、薬剤、膠原病、アレルギー、がん などでも起こることがあります。
➁のように増減している白血球が何か、を調べていきます。

●白血球、赤血球、血小板ともに増えている
すべての血液のもとになる幹細胞での異常を考えます。
具体的には骨髄増殖性腫瘍(慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、骨髄線維症)が疑われます。

●白血球は増え、赤血球は減少している。血小板は変わらないか多い。
慢性の炎症、あるいは腫瘍を考えます。
炎症が続くと鉄がうまく使えなくなり貧血になります。

●白血球、赤血球、血小板ともに減少している。
すべての血液のもとになる幹細胞の異常(骨髄不全症:再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、発作性夜間血色素尿症)
すべての血液を作るのに共通する栄養素の不足(ビタミンB12欠乏性貧血、葉酸欠乏性貧血)
脾臓が腫れて血液の寿命が短くなる肝硬変
などを考えます。

●白血球は増えているが赤血球、血小板は減っている
急性白血病、がんの骨髄転移、重症感染症などを考えます。

白血球 赤血球 血小板 代表的な病気
骨髄増殖性腫瘍
なし
↑ or → 慢性炎症、腫瘍
急性白血病
なし
なし
なし
骨髄不全、肝硬変

白血球が増加し、赤血球と血小板が減少している場合は急性白血病も考えられるため緊急で受診することが必要です。

➁白血球のどの成分が増えている、減っている?
次に白血球を目でみて分類し、どの血球が増えている、あるいは減っているかを検討します。
正常な成分が増えている、あるいは減っている場合にはゆっくり原因を調べていきます。
その場合は原因があるもの、血液の増減自体が病気であるもの、の2通りが考えられます。
一方で異常な血球が出ている場合には白血球数に関わらず緊急な場合もあり血液内科専門医への受診が必要です。
(例:急性前骨髄球性白血病では白血球数は増えないことがありますが、1日の受診の遅れが致命的になることがあります。)

【正常な成分が増えている場合】
好中球:感染症、ケガ、クッシング症候群など

好酸球:アレルギー(気管支喘息、アレルギー性鼻炎など)、寄生虫感染症、血液腫瘍、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症など

 

単球:慢性の炎症、血液腫瘍、がん、抗がん剤治療後など
リンパ球;ウイルス感染症、慢性リンパ性白血病(一見正常に見えます)

【異常な成分が増えている場合】
骨髄芽球:急性骨髄性白血病、進行期の骨髄異形成症候群など
前骨髄球:急性前骨髄球性白血病など
幼若白血球(骨髄芽球~後骨髄球)が全体に増える:慢性骨髄性白血病、がんの骨髄浸潤、重症感染症、抗がん剤治療後、G-CSF使用後など
異型リンパ球:ウイルス感染、悪性リンパ腫、リンパ性白血病など

【正常な成分が減っている場合】
好中球:重症感染、自己免疫疾患、抗がん剤治療後など

リンパ球:ウイルス感染、栄養不良、ステロイド治療、抗がん剤治療後など

以上のように白血球ひとつでもいろいろと病気は考えられますが、ほかの血球との関係性、どの白血球に問題があるのか、を調べていくことで診断していくことが血液内科で行う診療となります。

《まとめ》
白血球の数の異常を指摘された場合はまず他の血球との関係性を確認します。
白血球数だけに異常がある場合と他の血球に増減がある場合に考えられる病気が異なるからです。
そのうえで白血球の中身を確認し、どの血球が増えているあるいは減っているかを調べます。
異常な血液が出ている場合には早急な対応が必要です。
正常な成分の増減については慎重に調べていく必要があります。

《最後に》
近くの先生に相談する際にはぜひ「血液検査で血液像(目視)」をオーダーしてもらうようにしてください。
また、芽球がみられ、出血傾向(鼻血、ぶつけていないところに青あざなど)がある場合は脳卒中や心筋梗塞と同じくらいの緊急事態ですので早めではなくただちに血液内科にお問い合わせください。